赤いヤッケの男 山の霊異記

山の本の紹介です。

「赤いヤッケの男 山の霊異記」(安曇潤平著、メディアファクトリー刊、1300円)

32029015.jpg


山を舞台にした怪談集です。『幽』という怪談専門誌(そんなものがあったんだ!)の連載をまとめたものだとか。

私は山で怪談めいた体験に出くわしたことはないし、霊もお化けも妖怪も信じない者ですが、山や自然そのものへの恐れの感情は持っています。あんな怖いものはないとさえ思います。そういう意味では、山は怪談話の絶好の舞台なのかも…。

しかも、語り口の妙というのでしょうか、あらすじだけ聞いても怖くもなんともない話が、巧みな口調や絶妙な間でもって語られると、背筋がぞぞ〜と寒くなることってありますよね。この著者、その「語り口」が抜群にうまいんだなぁ。山登りのディテールがしっかりしているのも「真実味」を増す要因かも。

ただ怖いだけでなく、不思議な話、ほのぼのといい話なども取り混ぜて、楽しませてくれました。全23話。一篇一篇は短いです。

KH

白夜の大岩壁に挑む

山の本の紹介です。

「白夜の大岩壁に挑む―クライマー山野井夫妻(NHK取材班著、NHK出版刊、1600円)

51tkQZDgykL._SL500_AA240_[1]

1月に放送された、山野井泰史、妙子夫妻によるグリーンランド・ミルネ島のビッグウオール挑戦を追った番組の取材班がまとめたドキュメンタリーです。

02年のギャチュンカン登攀で手足の指を凍傷で各自計10本と18本失って再起が絶望視された二人ですが、トレーニングを重ね、再び未踏の岩壁に挑みます。山学同志会の木本哲氏(この人も足の指が10本ともない)と組み、3人で成し遂げました。

その準備過程や、登攀の行き詰まるような一部始終、奥多摩での日常生活や両親、大家さんら二人を支え心配する周りの人の思い――など興味深く読みましたが、私がうなずいたのは泰史氏の以下の言葉です。

「(岩登りができなくなっても)山登り自体は一生続けていくつもりです。これ以上面白い行為は、僕には見つかりません。ですから一生続けたい」

いいなあ。かつて著書で自らを「山で死ぬことを許された人間だと思う」と言明したのには、はっきり言って「別世界の人」と違和感を持ちましたが、この言葉には私にも共感できました。

一方、痛みに強く、どんな状況でも平静でいられる妙子さん。泰史氏が絶大な信頼を寄せるパートナーです。「百の谷、雪の嶺」を読んだときも思ったのですが、この人、泰史氏以上にすごい、と改めて思いました。ぜひご一読を。

※↓山野井泰史に関する本は他にこんなのが…。
「ソロ―単独登攀者・山野井泰史」(丸山直樹著、山と渓谷社刊)
「垂直の記憶」(山野井泰史著、山と渓谷社刊)
「凍」(沢木耕太郎著、新潮社刊、雑誌発表時のタイトルは「百の谷、雪の嶺」)

※テレビ番組の、同行取材のカメラマンもすごい、と思いました。

KH